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契約不適合責任

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「中古車の契約不適合責任」についてご紹介します。

ご相談の内容は、中古車販売業者からお気に入りの車をみつけ、購入し自走で帰ろうとしたこところ、帰りの道中でブレーキが故障したという事件です。
しばらく走行してから違和感があったとの事ですので、ブレーキに引渡し当初から瑕疵があったと推定されます。
ブレーキが完全に効かない状態ではなかったため、何とか自宅近くの行きつけの修理工場に持ち込む事出来ました。

すると、事もあろうか他にも不具合が多数みつかり、オイル漏れなどもあり、このままの状態では車検も通らないというのです。
購入時に、整備代として安くはない費用も請求されており、まさか購入直後にこの様な状態であるとは考えも及ばず、販売業者にこの事実を全て伝えたのでした。

販売業者の回答はどうだったのでしょうか。

何と、契約書の条項を持ち出し、「納車後の補償は一切受け付けない」と言下に断じたのです。

行きつけの修理工場も、それは有り得ない!と激怒。

それはそうですよね、車修理のプロから見ても、走行できない車を販売している事実が発覚したのですから・・・

さて、今回のケース、車は「中古車」です。

お気に入りの車種がやっとみつかり、「その車がいいと特定」し、ご自身でご決断され、契約書も交わしご購入に至っております。

その直後に瑕疵が発覚したのですが、発覚したその瑕疵は、「整備済みである」という販売業者の主張とはかけ離れたものであり、道路運送車両法に定められた自動車継続検査(車検)の保安基準にも到底達していない事実に鑑みれば、その責任は「不誠実で許せない」というレベルではなく、事業者としての法令順守の観点からも重大な疑義が生じると言えそうです。

この時、問題になるのは、契約書の条項ではなく、先週も出てきた契約に伴う責任、民法第562条以下に規定されたいわゆる「契約不適合責任」を厳しく質し、その事業者に課せられた義務を誠実に履行するよう求めていく事になります。

民法第562条
1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

当然、販売業者は、「もう販売した後だから知らない」「契約前に言え」「中古車なので相応の状態で販売するのは当然だろ」「契約書を交わしているんだ」「契約書の条項に一切の補償は受け付けないと書いてある」等と抗弁する事でしょう。

しかし、民法では、引き渡す売買対象物について、契約の内容に適合していることが求められているのです。

つまり、現時点では、自動車として通常の走行をすることすら危険であり、その「瑕疵」が重大な事故を引き起こす可能性がある状態ということです。

因みに安全に運転できるよう整備を依頼した場合に生じる費用は30万円程と見積もりされたとのことでした。

中古車を買って、購入1年以内に購入代金の倍近くの修理費用がかかった等ということはたまに耳にしますが、今回のケースに至っては、購入直後であり、元々通常の用途さえ耐え得ない自動車を引き渡したことは明らかです。
このことは、中古車であることを考慮したとしても看過できないですし、「法定の整備は済ませている」という主張は到底納得も容認も出来ないですよね。

自動車に限らず、売買契約においては、買主と売主の双方に義務が生じ、売主の義務の代表的なものとして売買対象物の引き渡し義務があります。
そして、民法では、引き渡す売買対象物について、契約の内容に適合していることが求められています。これが改正民法第562条です。

この条文によって、契約不適合の際の買主の救済手段として、買主に履行の追完請求をする権利が明記されました。

今回の契約は自動車の売買ですので、その内容とは安全に走行し得る自動車であり、それが売買対象となることは明らかです。

「中古車なのだからある程度仕方ないだろう」という抗弁については如何でしょうか。

これも通用しません。

中古車は、いわゆる特定物ですが、特定物については特定時の状態のまま相手方に引き渡せばよいという旧民法の規定は削除されています。

中古車といえども、社会通念に照らし安全に走行できる品質が求められるのです。そして、買主が引き渡しを受けた売買対象物が契約の内容に適合しなかった場合は、売主には既述の契約不適合責任を負うべき義務が生じます。

今回、相手方は、契約の条項を根拠に、自らに課せられた契約不適合責任の履行を頑なに拒んでいた様ですが、これは違法であり、全く認められません。

確かに民法562条以下の契約不適合責任は任意規定であり、契約当事者間でこれを免責にすることも可能です。ただし、これはあくまで個人間売買に限られたことです。

今回の相手は、中古車販売を生業とする事業者ですので、今回のような一般消費者との売買では消費者契約法の規制を受け、同法8条の規定に基づき、契約不適合責任の免責条項は無効となります。
そして、この消費者契約法の規定は強行法規ですので、本件契約の規定に限らず、また、相手が主張する法定の整備がなされていたとしても、あるいは、瑕疵について相手が善意であったとしても、契約不適合責任から免れ得ないのです。

因みに、これまで「瑕疵」という言葉が使われていましたが、改正民法では「契約不適合」という文言にかわっていますので、契約の内容に適合しているのかどうか、より消費者に分かり易くなりましたね。

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