「名誉毀損」について法律の有り無しについて具体例をみていきましょう。
内部の告発や退職者からの告発など何が真実なのかわからないまま、よく言う「憶測が憶測を呼ぶ」状態があるのかと思います。
真実だとしてもネット上で名誉を棄損される事もありますよね。
アダルトサイトを無料だと思い動画閲覧を申し込んでしまったところ15万円の請求が来ました。
これを支払わずに放置していたら、アドレスから個人を特定出来ている様な警告と私の情報を公開するとの脅しが続いております。
気が変になりそうですが、本当にこの事業者は私の個人情報を入手したのでしょうか?
実際に私の個人情報をこの様な形で晒したら名誉毀損にならないのでしょうか?
またその場合、相手の事業者名や住所など不明なのですが、訴える事は出来ますか?
回答は、相手が個人情報を特定しているかですが、これはしていないと思います。
請求を無視していたら訴えられるのではないかという問題は一旦置いておいて、支払前であれば先ず無視することですね。
事業者が把握しているのはIPアドレスのみです。
IPアドレスからわかるのは、そのアドレスの接続業者名とおおよその地域です。
そこから推定して、あたかも特定されているように言ってきているのだと思います。
実際にIPアドレスから本人を特定するには、プロバイダー責任制限法という壁があり、このような不当な業者に開示する仕組みにはなっておらず、プロバイダーは情報を開示しません。
次に相手が不明な状態で訴える事が出来るかですが、これは難しくはあるものの、民事訴訟法151条でいうところの調査嘱託を利用するという手はあります。
これは簡単に言うと相手の特定は個人では難しいけれども出来る限りの事をしたとして、WEBに記載されている可能な限りの情報(メールアドレス うそであろう会社名 バーチャルであろう住所など)のみ提供しあとは嘱託先に調査をしてもらうという制度です。
結局、相手が特定出来ないと裁判は始められないのですが、調査嘱託の申し立てを繰り返しているうちにバーチャルオフィスを提供した会社、電話事業者、レンタル事業者などが特定され、そこから芋づる式に当該事業者が判明しない場合は、その協力業者たちの本人確認が甘いとして訴える矛先をそちらに変更するという流れもあり得ます。
インターネットのトラブルは逃げ道も多く諦めがちですが、やり様が無くはないですので、知識だけは入れていきましょう。
では、名誉毀損は何を対象にしているかがポイントになるのでしょうか。
それは「特定の人」です。
何だ、良かった。会社は人ではないから大丈夫ですね。
と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、会社は「法人」といって人に含まれています。
よって、法人格の無い団体を含め、法人は名誉毀損の被害者になり得るという事になります。
会社が「精神的苦痛」を主張するのは何かおかしな感じもしますが、名誉を毀損された場合、財産的損害だけではなく、評判など無形の損害も被ると考えるようです。
では、少し発展して、国や地方自治体はどうでしょうか?名誉を毀損された場合、被害者と言えるでしょうか?
答えは、国は、NOで地方自治体は、YESだそうです。
国が名誉毀損などを言い始めると民主主義の原理が崩れることが理由のようですが、地方自治体は、他の自治体との対比で成り立っており、社会的評価の影響を大きく受けると考えるようです。あまりしっくりこないですが、その様に決まっています。
そして、もう一つ大きなポイントが「特定の人」の考え方です。
あくまでも相手が特定されていなければならないという考えなのですが、
相手が特定されていないので名誉毀損ではないと判断された判例を最後に紹介します。
某知事がその昔以下のような発言をしました。
「文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものはババアなんだそうだ」
女性が生殖能力を失っても生きているっていうのは無駄とした「ババア発言」訴訟のものですね。
十分、侮辱、名誉感情の侵害にあたるとして当該知事は訴えられたのですが、この発言は、人類の半数を占める女性を対象にしたものであって、個人が特定されていないとして名誉毀損ではないと判断されました。
感情的には訴えたい気持ちになりますが、「特定の人」これは、名誉毀損の大きなポイントになります。
では、こんな理屈通用するのでしょうか?
SNSをつかって誹謗中傷されました。誰もが閲覧できる状態で鍵も何もかかっていないところで実名で中傷されたのですが、当該加害者にはフォロワーが数名しかおらず、不特定多数ではないから問題ないと豪語しています。
このような、名誉毀損の対象(条件)として「不特定多数」」に対するものでないと該当しないと思われているケースはよくあるかと思います。
刑法第230条1
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無に関わらず、3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金に処する」
この「公然と」という部分が誤解を生む原因になっているのですが、公然とは、「不特定または多数の者が認識し得る状態」を言うと説明されています。
この説明を紐解くと、「不特定または多数」ですので、必ずしも大人数である必要は御座いません。そして「認識し得る状態」と言っていますので、実際に認識したかどうかは関係なく、認識する可能性があれば足りるという事になります。
東京高裁の判決によると、実際に見聞きした者が皆無であってもネット上の情報は「公然」と言えるとした判例が御座います。
また、最近では皆がSNSを以て情報を発信出来ますので、「伝播性の理論」という解釈が裁判所にあり、たとえ数名であっても伝播の可能性があれば「公然」だと解釈する立場にあるようです。
例えば、組織内、クラス内、チーム内、係内などある程度閉ざされた関係性の中であれば、問題ないという誤解もあるようですが、伝播可能性の理論に立てばこれも「公然」と判断される可能性は十分にあるという事です。
こうなると、逆に伝播可能性が無いという証明は難しいようにも感じますが、裁判所は「ごく数名に対し、打ち明け話の域を出ず、口止めをしていたら」問題ないと判断している判例もありますので、現代でも「口止めをした」というのは有効な抗弁になるようです。
時代を背景とした「伝播性の理論」を持ち込みながら、一方で「口止めした」事が有効とされる、何とも基準が曖昧であり、いつもの「総合的に判断」するという得意技が出て来るのでしょうね。
「ここだけの話し」という口止めは、有効なリスクマネジメントになる一方、人の口に蓋は出来ませんので、周り数名への打ち明け話しであっても注意はしましょう。
また、ストーカー扱いされて接触を禁止されているなど、こういった名誉毀損の請求も出来ないのでしょうか?
交際相手と別れる際、お金の清算もあったので何度か連絡をしたのですが、ブロックされ、自宅を訪れたところ、警察がいてストーカー規制法にひっかかるとの事で誓約書にサインをさせられました。それ自体、不当だと思いますが、問題はここからです。
彼女が私の事を「ストーカーの前科者」としてSNSで投稿したのです。実名は挙げていませんが、共通の知人も多いので、これは名誉毀損?
「前科者」という書き込みは当然、人の評価を下げ得る内容ですので、それが事実であるかどうかに関わらず名誉感情の侵害になります。そして実名を晒していなくとも見る人が見れば特定される状態でSNSにて公然と事実を摘示していますので、名誉毀損罪にも該当してくるかと思われます。
ストーカーの規制とこういった請求は全く別物ですので、請求自体は問題ありません。
本当にストーカー行為をしていた場合は論外ですが、別れ際にストーカー規制法を利用し相手と接触できないようにする手法は、警察もある程度把握しているようで、状況によっては「弁護士や行政書士などに頼んで内容証明を送る」ようアドバイスされるケースも御座います。
因みに、この「前科」とはどういった時に付き、いつまで拘束されるかご存知でしょうか?
警察に任意で事情を聞かれた時でしょうか、逮捕された時でしょうか、起訴された時でしょうか?
いずれも不正解で、正解は起訴され「有罪が確定」した時です。
この有罪は罰金刑も入りますので、交通違反で赤切符を切られ罰金を支払った場合も「前科」になります。
よって今回のケースは、前科はついておりません。
続いて前科は消えるのかという質問ですが、前科は消えません。
その記録は、検察庁と、本籍地のある市区町村の犯罪人名簿に残ります。
前科が消えると誤解されているのは、資格停止などになっていたケースで5年経つと復活する事があるからかと思われます。
これは、一定期間を経過すると前科は消えなくても刑の言い渡しの効力が消滅するからです。禁固以上の刑に関しては10年、罰金以下の刑に関しては5年で消滅します。
この罰金以下の犯罪が多いためそういった誤解が生じたのかと思われます。
このように前科は消えるように思える事情がありますが、前歴は一生涯消えませんので注意が必要です。
前歴は、警察に逮捕されたり、微罪で釈放されたり、書類送検されたりすると付きます。
日常生活に支障は無さそうですが、警察や検察には履歴が生涯残っており、罪を犯した際に不利になることはあるようです。