年末に友人宅でお酒を飲み、その友人はお酒を飲んでいなかったため、帰りに車で送ってもらいました。
友人の好意で送ってもらう事になったのですが、友人の不注意で事故に遭いケガをしてしまいました。
この場合、大変申し上げにくいものの、友人に対して治療費や慰謝料請求などは出来るのでしょうか?また、これは関連する事項で教えて欲しいのですが、実家に帰省した際、父親の運転する車で事故に遭い大ケガを負った事も御座います。
この場合は、どうだったのでしょうか?
はい、これは法律上(自賠法)、他人と言えるかどうかで決まります。
自賠責保険に保険金の支払請求をするには、被害者が、事故を起こした者との関係で「他人」に当たることが要件となっています。
自賠法3条
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。
確かにこの条文を紐解こうとしても「他人」が誰なのかがポイントだとわかりますね。
ところが、自賠法にはこの「他人」の定義がなく、判例に委ねられているのが現状です。
有名な最高裁の判決は2つ。
「運行について間接的、潜在的、抽象的な立場にある者は、直接的、顕在的、具体的な者に対しては、他人である事を主張できる。」
「運転者が同乗中の保有者の運行支配に服さず、その指示を守らなかった等の特段の事情がない限り、事故車の具体的運行に対する同乗中の保有者の支配の程度が運転者のそれに比して優るとも劣らなかった場合には、同乗中の保有者は、他人と言うことはできない。」
何の事だかさっぱりわからなくなりますよね。
余計ややこしくなった感は否めませんが、要するに、
運転者以外は、基本「他人」です。これは家族も含めてそうなります。
ただし、例えば、夫婦の共有名義の車で常日頃から夫も妻も運転しているような場合は、
「他人とは言えない」
よってご質問の答えは、友人に対しても父親に対しても損害賠償請求は出来るという事になります。
ただし、判例を見ていると慰謝料に関しては、好意で乗せてもらった場合や親族間の場合は減額されている事が多い様です。
ややこしい判決をご紹介しましたが、裁判所が出す判決はこういうものが多いですよね。
「優るとも劣らない」「他人と言うことはできない」等、結局どっちなの?と言いたくもなりますが、極力分かりやすく事例でご紹介していければと思います。
では、次に会社は他人?についてみてみましょう。
旅行中、後ろの車から追突される事故に遭い病院に行ったところ、頸部打撲、いわゆるむちうち症と診断されました。
結構酷い状態で半年くらい通院する必要があるとの事です。
相手方は、休日に社用車を使ってドライブしていた様です。この場合、相手の会社に対して治療費と慰藉料、それから車の修理代を請求出来るのでしょうか?
これは、前回ご紹介した「他人」にあたるかどうかの問題ですね。
社用車とはいえ、仕事中ではなくプライベートですし、会社に無断で使用していたとなると会社は「他人」と言えるのか?がポイントです。
これに対し裁判例は、従業員の休日無断私用運転中の事故でも、運行についてのあのややこしい基準、「客観的、外形的な判断基準」により会社は他人ではないとしてその責任を認めています。
よって、治療費と傷害慰謝料の請求は出来ます。
しかし、ここで一つ誤解しているポイントがあり、それは、自賠法で補償されているのは「生命又は身体」についての損害のみという事です。
クルマの修理代などは入っておらず、こちらは別途、民法で考える必要があるのです。
第715条【使用者等の責任】
①ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
②使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
③前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
この条文を紐解くときのポイントは、「事業の執行について」という条件が付いている事ですね。このケースでは会社に無断で私用で使っていますので、事業の執行とは到底言えないですよね。
ただし、この従業員が普段営業マンであった場合、いくら私用で使っていたと言われても
土日も仕事の延長で車を使用していたと「外形的」に判断される事もあり、単に休日であったからということで会社の責任が無いわけでは御座いません。
人身傷害に関しては、会社は他人ではなく責任を負うのに、物損は知らないというのは不自然なのですが、法律を紐解くと、こういう現実も出てきてしまうのですね。
相手が社用車を使っている場合、すべて会社に請求したくなるものですが、治療費や慰謝料は請求出来るものの、修理代は当然請求出来るというものではない事を一応頭に入れておきましょう。