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本人訴訟

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本人訴訟についてご紹介します。

訴訟と聞くと、先ず弁護士さんを思い浮かべると思います。

しかし、いざ弁護士さんに相談すると証拠が薄い、訴訟するだけの意味がない、弁護士費用の方が高くつく(費用倒れ)等と言われて拒否されてしまう事も多いのではないでしょうか。

これば弁護士さんがいけないのではなく、経済的利益等と言いますが、弁護士さんが受任する案件がそもそも限られているということを表しています。

ここで訴訟という事に関し、少々振り返ってみると、民事訴訟の原則は「本人訴訟」だという事です。

これは、憲法32条で明文化されています。

「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。」

この「何人も」とは、弁護士を指しているのではなく、当然、国民一人一人を指しています。

この事から、ご本人で訴訟を起こす事が前提であり、弁護士は、それを代理人として委任を受けた際に代わりに出来るというに過ぎません。

この点、民事訴訟法54条でも、弁護士が代理人であるという事に言及し、本人訴訟を前提としている事を明記しています。

民事訴訟は、私的なトラブルを公的に解決する手段なのですが、弁護士を雇うかどうかは自分自身で決められ、ご本人自ら訴訟を起こすことが出来るのです。

弁護士は、どうしてもご自身で出来ない時の補助役といった立ち位置でしょうか。

さて、とはいえ、ご自身で訴訟を起こすにはどうしたら良いのか、訴訟って難しくないのか、怖くないのか、いろいろ不安ですよね。

訴訟=弁護士

という印象が強く、えっ??と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、まず、前提はそうだという事です。

では、いざ訴訟を起こすとなると、どこへ申し立てるのか、費用はいくらくらいかかるのか、解決までの期間は?どんな準備が必要なのかなど不安も沢山ありますよね。

弁護士さんに相談すると「やっても意味がない」「時間ばかりかかって利益が無い」等と門前払いされることも御座いますよね。

何故そんな事を言うのか!弁護士は冷たい!と感じる方もいらっしゃるかと思います。

確かにそう考えても無理からぬことですよね。

しかし、弁護士さんも、本当のところはお気持ちはわかると思っている中、経済的利益の事を言っているのです。

例えば、名誉毀損のトラブルですと慰謝料として30万円など罰金程度の解決が多い傾向に御座います。
その時に弁護士を雇うと着手金だけで30万くらいかかりますし、訴訟まで想定すると予算としては100万円くらいかかることが御座います。
そうするとマイナス70万円と大赤字になってしまいます。

これが、費用倒れと言って事案の種類だけで判断され、訴訟代理を引き受けない大きな理由になります。

一方、仮に相手方に50万円を貸しており、相手が返してくれないといったケースで、この貸金債権に基づき自分で裁判を起こし、費用が20万円かかったとしても30万円は回収出来ます。

この時に、本来50万円の債権を持っていたのだから20万円目減りし損をしたと解釈される方がいらっしゃいますが、そうではなく、このまま放っておけば回収はゼロ円だったのです。

元々50万円の価値の債権を持っていたのではなく、散々請求し返してくれなかったのであれば、ゼロ円の価値しかなかったものを、裁判をすることによって、30万円の価値を生み出したと考えるのです。

法的トラブルは、経済的活動ではないのですが、裁判をするときは、こういった損得勘定も必要だという事ですね。

本人訴訟、いったいいくら位の予算が必要で期間はどれくらいかかるのでしょうか。

まず、予算

これは、収入印紙代、予納郵便切手代、証人の日当宿泊費、その他コピー代

等実費のみで、場合によって鑑定を求める必要がある場合は別途鑑定料がかかります。

予納切手代というのは、裁判所が書類を送達するのにかかる切手代で5千円もあれば足ります。

証人の日当は1万円以内ですかね。

一番分からないのが、収入印紙代だと思いますが、これは、相手に求める訴額によって決められています。

裁判所のホームページに手数料の一覧が御座いますので、こちらをご確認ください。

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file3/315004.pdf

一番左に訴額、その隣に「訴えの提起」とありますが、これが今回の費用です。

例えば、100万円を相手に求める場合、手数料は1万円です。

思った以上に費用はかからないと感じたのではないでしょうか。

100万円の返還を求める裁判で証人が数人いたとしても数万円で実施可能なのです。

因みにこの訴額は訴訟物の評価と言われますが、今回みたいに「貸した金100万円返せ」等でしたらシンプルでわかりやすいのですが、所有権の移転や明け渡し等であれば訴額をいくらにしたら良いのか判断が難しいですので、そういった場合は裁判所に聞いてしまった方が宜しいかと思います。
因みに訴額がはっきりしない慰謝料等の場合は、一律で「160万円」とし手数料は1万3千円とみるようです。

訴訟費用は、勝訴すれば相手に請求出来ると聞いたことがあるかもしれませんが、
これは別途訴訟費用確定の裁判を起こす必要があり、余程費用がかかっていない限り相手に請求しない事が多い様です。

この情報とよく誤解されているのが弁護士費用ですが、本人訴訟ではなく、弁護士を雇ったとしてその弁護士費用を相手に請求出来るかというと、これは基本的には出来ません。

弁護士は任意で雇った代理人であり、本人訴訟が原則の中、相手が負担する理由はないからです。
例外的に交通事故の裁判例などでは弁護士費用の一部を損害実費として認める判例もあるようです。

続いて、期間

実際どれくらいかかるか想像出来ますでしょうか。

平均すると1年くらいです。

そんなにかかるの?と思われた方とその逆の方もいらっしゃるかと思います。

それはよくマスコミで見るような大事件の場合、10年、15年とかかっているケースもありますし、一方身近な民事調停などを考えると数ヶ月で解決していますので、人の印象も様々だという事です。

本人訴訟の期間は1年くらいですが、中味を見ていくと大きく2つの期間に分けられます。

第1期 訴状提出から第一回口頭弁論まで

1~2カ月

第2期 証拠調べと口頭弁論の繰り返しから判決まで

8~10カ月

厳密には、これは期間というより回数です。
第一回口頭弁論と第二回口頭弁論の間は裁判所のスケジュールで1カ月くらい空くことが多い中、口頭弁論は10回前後行われるというイメージです。
※簡単な裁判であれば3回くらいで終わる事も御座います。

第1期の訴状を提出してから第一回口頭弁論まで何で時間がかかるのかと言いますと、
この間に裁判所は、訴状の内容を審査したり期日を決めたり期日が決まったら今度は訴状送達などの事務を行っているのです。

期間のイメージは付きましたでしょうか。

では続いて、この間にどんな手間があるのかをお話しします。

先ずは、訴状の作成ですね。

これが正式に受理されると裁判が始まります。

訴状の写しが訴えられた側の人に送付され、そこではじめて自分が被告となった事を相手が知ります。

その訴状に書かれた事実に対し被告は反論をするため答弁書という書類を作成し裁判所に提出します。

この写しは、原告にも届きます。

いよいよ待ちに待った第一回口頭弁論の期日が来て、裁判所に出頭します。

そこでされるのは、訴状陳述と答弁書陳述です。

よくドラマで見るアレか、「異議あり!!」みたいなやり取りです。

ところが実際は、そんな事は行われず、「陳述」とありますが、実際に裁判所で陳述する事はありません。

双方が訴状と答弁書を事前に見ていますので、書類の受け渡しのみで終了します。

民事訴訟を裁判所に見に行かれた事がある方は最初ビックリしたかと思いますが、非常に静かな感じで何か書類の受け渡しと次回のスケジュール確認をしているのみで、その間わずか数分といったイメージです。

形式的と言いますか、第一回口頭弁論は儀式のような感じですぐに終わります。

この時被告から提出された答弁書に対する反論を次回以降していき、これを1カ月に1回のペースで繰り返します。

口頭弁論などと言っておりますが、実際はこのように事前に作成された書面を提出する事によって進んで行くのが民事訴訟です。

まとめますと本人訴訟の手間としては、

訴状の作成
準備書面の作成
1カ月に1回の裁判所への出頭、所要時間数十分

という事になり、裁判所でやる事は少なく、事前の書面作成がメインであるということです。

では、その書面作成の中の「訴状の作成」についてご紹介します。

この訴状を作成し受理される事によって民事訴訟が開始されます。

書面作成の入り口ですね。

これは書式が決まっていますので、その通り記載していきます。

① 日付
② 宛先「●●地方裁判所●支部 民事部 御中」
③ 原告の住所、氏名 被告の住所・氏名
④ 事件名「●●請求事件」
⑤ いくら求めるのか 金●●万円
⑥ 貼布印紙代 金●円

ここまでが決められた記載ですので機械的に書けるかと思います。

続いて4つに分けて記載します。

これも言葉の意味がわかれば、特に難しくは無いです。

①請求の趣旨

趣旨と言われると難しく感じますが、要は、相手に何を求めるのか「結論」を記載するところです。

「被告は原告に100万円支払え」
「訴訟費用も被告が負担しろ」

これだけです。

細かい事を記載する必要はありません。

②請求の原因

ここに上記結論の理由を記載します。

内容証明に記載するような内容の要約といったイメージですね。

「原告は被告に●年●月●日、100万円を貸し、同年●月●日に返す約束であった。
しかし、被告はそれを無視し、音信を絶った。そこで同年●月●日に内容証明通知にて警告したが、回答期限までに返答が無かった。よって、被告に対する金銭消費貸借による支払い債務の履行として訴えを提起する。」

③立証方法

甲1号証
甲2号証

原告側が出す証拠書類には「甲」と記載するルールになっています。

④付属書類

訴状副本 1通
甲号証正本、副本 各1通

文字の大きさなど決まりはありますか?というご質問がありますが、法律上は決まっていません。ただし、実務上は一定の決まりがあり、先ずA4用紙。
横書きで文字のフォントは「12」1行37文字、1ページ26行となっています。

一応知っておくとそれなりの形式に見えるかと思います。

如何でしょうか?

裁判で求める結論と何故、裁判に至ったのかその原因を記載するだけですよね。
請求の原因は、要件事実などを記載しないといけませんので、多少難しい部分はありますが、あまり法的な文言の「要件事実」に拘らず、とにかく経緯を細かく書いておけば問題ないかと思います。

本人訴訟の入り口は、「訴状の作成」訴えの趣旨と原因を記載すれば大丈夫。

趣旨は、結論だけ、原因は、「要件事実」という法のルールを知らなければいけないみたいだが、これまでの経緯を細かく書いておけば問題なさそうだと思われたかと思います。

まさにその通りなのですが、一つだけ絶対に知っておいて欲しい事が御座います。

それは、裁判官はスポーツでいう「審判」に過ぎないという事です。

今オリンピックがやっていますので、たとえば柔道にも審判はいますよね。

審判は、「あなた、この技出した方がいいですよ」「あなた必殺技出し忘れていますよ」「相手の弱点はここですよ」等と教えてくれませんよね。

あくまでも柔道のルールの中で繰り出された技について勝敗を決めるという役目です。

裁判も同じで裁判官は、原告が請求していない事や請求し忘れている事に対し何も教えてはくれません。

例えば先週の貸金返還請求の事例で言いますと、

「100万円返せ」という請求なのですが、この100万円は金銭消費貸借契約という契約の中の金額であり、その支払いを遅延しているとなると、他に遅延損害金も請求出来ます。
これは債務不履行を理由とする損害賠償請求という事になります。
よって、本来は、「100万円返せ」以外に「支払い済みまでの年5分の割合の遅延損害金を支払え」と言えたのです。

「あなた損しますよ」とは裁判所は教えてくれません。

これを、「処分権主義」と言います。

これは2つの意味があり、先ず、訴えを起こすかどうかは自由で訴えがあってはじめて訴訟が開始されるということ、

そして、もう一つ、その訴えの対象や範囲は、原告の申し立ての内容によるということです。

厳しい様ですが、訴えると決めた以上、自身の責任の中でやることになるのです。

裁判官は法律に詳しいのだから教えてくれてもいいのにと思われるかもしれませんが、逆にあまり口出しされてもと思うところも出てくるでしょうし、相手にも「そんな事言ったら不利になるよ」等の助言も出来てしまう事になり、公平性の観点からも口出しはしないルールなのです。

要件事実や請求に漏れが無いかは専門家に確認しても良さそうですね。

訴状を提出し受理されれば、いよいよ本人訴訟開始です。

出された訴状に対し相手が抗弁し、これを答弁書という形で提出します。

これで請求事項と相手の反論が揃い争う事になるのですが、

その際に重要となってくるのが、証拠調べです。

証拠は大きく2つあります。

人証と物証です。

民事訴訟は、書面の出し合いとご紹介させて頂きましたが、この書面は物証の中に入り、
民事訴訟のメインです。

人証
・鑑定
・証人尋問
・当事者尋問

物証
・書証
・検証

民事訴訟は書類審査のようなもので物証の書面のことを書証と言います。

この書証には、行政書士の法定業務である内容証明も入りますが、ざっと以下のようなものが挙げられます。

・内容証明通知書
・契約書
・納品書
・領収書
・その他証明書
・診断書
・免許証
・許認可証
・不動産登記簿

公文書と私文書があり、公文書の方が証拠能力が高いと思われるかもしれませんが、
証拠として採用されれば同じです。ただし、採用される際のハードルが私文書の方が高めというだけです。特に自分で作った私文書は、証拠として認められ辛く第三者や相手方に近い人が作った書面である程、証拠として採用されやすくなる特徴は御座います。

この様に書面が主役ですので、いくら法廷で相手が大声で自分の主張をしたり、威嚇したりしても裏付ける書証が無ければ何ら影響しません。

証人尋問など人証も御座いますが、補足的なものであり、あくまでも主役は書証なのです。

裁判官は、柔道の審判と同じであり、いくら叫んでも威嚇しても、その繰り出された技で判断するのです。

その技が訴訟では、書証です。

ただし、ここで一つだけ注意が必要です。

それは、裁判官の「心証」というものです。

お互い様々な証拠を書証として提出するのですが、どの証拠が信ぴょう性が高いか、などその証拠の価値や証明力に関しては、裁判官の心証で決めて良いという事です。

これは民事訴訟法247条で決められており、「自由心証主義」と言います。
書証だけで判断出来ない場合、尋問の情報も加味し総合的に判断することになります。

最後に、今日のテーマ、証拠の提出ですが、先ず原本を持参するのと、裁判所と被告に渡す分、2通をコピーする必要がありますので原本1部とコピー2部はセットで準備すると覚えておくと良いでしょう。

「準備書面」について。

第1回口頭弁論は形式的なもので終わります。

本番は第2回以降という事になり、ここで「言いたいこと」をアピールすることになるのですが、この「言いたいこと」をまとめたものが「準備書面」です。

訴訟は訴状や答弁書などいろいろ書面の名前が出てきて難しそうですが、「言いたい事」のまとめが「準備正面」と考えて宜しいかと思います。

具体的には、御自身が主張した事の補足や証拠の説明、相手の答弁書に対する反論などを記載します。

書き方は自由ではあるのですが、分かりやすく整理してまとめる必要が御座います。

書き方は自由と言いましたが、タイトルはそのまま「準備書面」」ですので、冒頭に「●●について、原告はその事実関係を明らかにするため、下記の通り弁論を準備する」と記載します。

あとは自由で自分が出した証拠について言いたい事をまとめても良いですし、第1回のときに相手の答弁書が出されていますので、その認否について明らかにし、その理由を原告の主張として記載することが多い様です。

●●という事実があるので被告の主張は虚偽である。
●●という証拠があるので被告の出した書証は偽造されたものである。

等、事実に即して簡潔にまとめると良いでしょう。
この準備書面は、何回目の準備書面なのか「第1回」など表題の横に記載して裁判所に提出します。
これは、事前に被告にも見せるので、次の期日の1週間~10日前までには担当書記官に提出しておくと良いとされています。

その際、裁判所用は「正本」相手被告用は「副本」と右上に書いて提出します。

事前に提出された準備書面は、次の期日に裁判官がこれを陳述するか聞いてきますので「その通り陳述します」とだけ答えます。

これによって内容の詳細を読み上げなくても陳述した事になるのは訴状のときと同じです。

まさに「書面」が主役ですね。

如何に分かりやすくまとめるか、文章力は鍛えておくと良さそうです。

あと「裁判官の匂わし」についてご紹介します。

裁判官は、審判のようなもので、原告、被告どちらかに肩入れはしないとお話ししました。

それは、確かにそうなのですが、「こうしたらいいよ」という事を、それとなく言葉のはしばしや態度で知らせてくれることは有るようです。

本人訴訟は、ご自身で書面を作成されていますので、いろいろ不安もあろうかと思います。

そのとき、裁判官の匂わしを見落とすと致命傷になる事も御座いますので、
ある程度の匂わしは把握しておくと良いでしょう。

代表例をご紹介します。

■他に主張はないですか?

法律構成が成り立っていない事を示しています。

今現在の法律構成では敗訴するので、新たな法律構成を立てた方が良いというアドバイスです。

■立証が足りません

事実認定をするだけの証拠が無く敗訴するので補強する証拠を追加提出するよう示しています。

例えば借用書が無い貸金トラブルで、相手との貸し借りのやり取りのメールを証拠として提出していた場合、実際に引き出した預金通帳の証拠を追加する等です。

■主張が足りません

これは絶対に敗訴すると言っています。

たとえば、要物契約というモノの引渡し等給付が条件になっている契約に関し、契約を締結した事のみ記載し、実際に引き渡した事が記載されていない等、根本的に何かが抜けている事を示していますので、その法律構成で何が抜けているのか調べ、追加主張する必要が御座います。

■主張を補充してください

これは上記程ではないですが、何か足りない事を示しています。
この場合は、より経緯の詳細を示したり、言いたい事を準備書面で補えば足ります。

■ 結審し、次回判決にします

これは合格です。

特に何も不足はない事を示しています。

裁判官の匂わし、サラッと言われると聞き漏らしてしまいそうですね。

このあと、どうしたら良いのかポイントだけ示してくれていますので、注意して聞くようにしましょう。
この匂わしは、裁判官がいい人だからやっているのではなく、実は法律上明記されています。

民事訴訟法149条1項
裁判長は、口頭弁論の期日又は期日外において訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対し問いを発し、又は立証を促すことができる。

こういった匂わしもありつつ、争点整理と証拠調べが始まっていくわけですが、準備書面の提出と反論を繰り返していると時間ばかり過ぎていく気がしませんか?

訴訟にまで至っているわけですから、当事者がすんなり認めるわけなく、長引きそうというのは感覚的にわかるかと思います。

そこで、裁判官の匂わしではないですが、口頭弁論が速やかに進むために、「弁論準備手続」というものが御座います。

これは、準備書面の提出と反論を当事者が主体的に繰り返すのではなく、あらかじめ裁判所と当事者で話し合って争点や証拠を整理するというものです。

直接の面談や電話会議で行なわれます。そしてこの手続きは非公開であり法廷で行うものではないので、もう少し気楽に質問したり意見をしたりすることが出来ます。

裁判は公開の法廷で行なわれるから良いのではないかと思われた方もいらっしゃると思いますが、この準備段階で話し合われた事は、口頭弁論で陳述することになっています。

また当事者のご要望により、傍聴も可能です。

そしてもう一つ「電話会議手続」というものが御座います。

民事訴訟法176条3項
裁判長等は、必要があると認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、争点及び証拠の整理に関する事項その他口頭弁論の準備のため必要な事項について、当事者双方と協議をすることができる。

裁判官と当事者が交互に電話で話をします。

遠方の場合、便利ですよね。

それと名前が似ていてややこしいのですが「準備的口頭弁論手続」なるものも御座います。

これは集団訴訟など特殊なケースで「争点」を事前に明らかにするため、当事者が集まって円卓で話し合うものです。

この様に、口頭弁論の原則との調和を図りつつ、裁判を受ける権利を保障しているのです。

こういったルールは、民事訴訟法に記載されているのですが、なかなかご自身で読むとなると表現が難解だったりしますよね。

「欠席裁判」この言葉は聞いたことある方が多いかと思いますが、正確な意味を把握されていないケースもあるかと思います。

欠席裁判という言葉は、主に被告側が欠席した場合に使われます。

これは、文字通り、裁判に欠席することなのですが、被告が欠席すると必ず原告に勝訴判決が下りるという事では御座いません。

被告が答弁書も出さず、裁判も欠席したら、確かに原告の主張をすべて認めたものとみなす事も出来ますので、原告の勝訴を言い渡す事も出来るのですが、第1回口頭弁論に限っては、
答弁書さえ事前に提出しておけば、裁判に欠席したとしても、答弁書を陳述したものとみなされます。

これは民事訴訟法158条で守られています。

第2回口頭弁論以降はダメなのですが、初回だけはオッケーとされているのです。

では、例えば期日を間違えていて、答弁書も未だ出しておらず、裁判も期日を間違って記憶していたので当日欠席になってしまった場合はどうでしょうか。

この場合、上述したように、原告の勝訴が言い渡される事もあるのですが、救済措置として口頭弁論再開申立書を出せば良い事になっています。

第1回口頭弁論が結審したとは言え、その判決の言い渡しには1カ月ほどかかりますので、
その間にこの書面を提出します。

では、原告が欠席した場合はどうでしょうか。

自分で訴えを提起しておいて欠席とは、なかなか有り得ないと思われるかもしれません。

実際、裁判所も訴えを取り下げたものとみなすことができ訴え自体を消滅させることになっています。

しかし、これも1カ月以内に口頭弁論期日指定申立書を提出すれば、改めて第1回口頭弁論が開かれる事になっています。

これは、民事訴訟法263条で守られています。

この様に欠席裁判と言いましても、「裁判に欠席すると負ける」という解釈は、必ずしも正しくはなく、第1回に関しては臨機応変に対応してもらえるようですね。

そもそも訴訟を進行させるためには、予め定められた期日に出頭しなければいけないのが原則です。

ただし、1回目だけ多目に見られているのは、第1回の期日に限っては、原告と被告の予定に関係なく裁判所の都合で指定しているのも大きな理由かと思われます。

この期日の指定・変更は、必ず認められるとは限りませんので、極力守った方が良さそうです。

また原告からの申請は認められやすく、被告からのそれは認められにくい等の事情もあるようですので、その点も覚えておくと良いでしょう。

最後に「判決」について。
書証の提出と陳述を繰り返し、これ以上の主張や証拠が無くなった時点で、裁判所からその旨最終確認があり、「これ以上、ありません」と当事者が言えば、裁判が終結します。

判決の言い渡しは、その場ではなく、「令和●年●月●日に言い渡します」と宣言されます。

大方2週間程度で言い渡されますが、複雑な事件などであれば、ここでも時間がかかり、2,3カ月待つ等ということも御座います。

判決は、主文と理由に分けられますが、主文だけが簡単に読み上げられます。ものの数分といったところかと思います。

この主文で、自分が勝ったのかどうかがわかります。
理由の部分は長いので読み上げは省略されるのです。
この判決言い渡しは、出廷する必要はなく、後日、判決の正本が郵送されてきます。
早く判決結果を知りたい場合は、電話をして、事件番号と名前を言えば、書記官の方が教えてくれることにはなっています。

ようやく判決が言い渡されて、やれやれこれで終わったと安心するかもしれませんが、ここでは未だ確定されていません。

そうです。

判決の正本が届いた翌日から14日間は控訴が出来るのです。(民事訴訟法285条)
この控訴が成されなかったとき初めて判決が確定します。

これを判決の「既判力」と言います。
もうこれ以上、同じ件で裁判を起こすことは出来なくなります。

ただし、この既判力が有るのは、判決の主文に関してであり、理由の部分には既判力がありません。

よって、理由に不服があるとして別の訴訟を起こすことは理論上可能です。

こうして、御自身の主張が通り「既判力」という強い味方を手に入れたのですが、判決文は、ただの紙切れに過ぎません。
実際に裁判所がその後お金の回収まですべてやってくれるわけではなく、判決を根拠に自分で行動しなければならないのです。

「被告は原告に100万円支払え」と判決が出ても、相手が支払いたくないと逃げてしまう事もあります。別途強制執行の手続きをすれば強制的に回収することは出来るのですが、これも自分でやらなければいけません。

結局、裁判に勝訴したが、何にもならなかったという事も起こり得るのです。

相手にプレッシャーを与える効果という意味合いだけでは労力が大き過ぎますよね。

これは、原告被告双方にとってもそうだと思います。

裁判まで行かずに、お互いの主張をし合い、納得の上で未然に防げるのであれば、それが一番、最終的に白黒つける必要のある事件は、裁判所が強い効力を発しますが、白黒つけるのに向かないトラブルも多い、証拠が無いトラブルも多いというのが現状ではないでしょうか。証拠が無いと弁護士さんに門前払いされる事も御座います。

勿論、裁判を前提としているものは最初から弁護士さんに相談されるのが筋だと思いますが、白黒つける前に気持ちを伝えたい、事の重大さを理解させたいといった場合は、行政書士に相談する等、専門家を使い分けつつ、御自身に合った体制を整える事が重要ですね。

そして、訴訟は「本人訴訟」が基本であるという事もお忘れなく。

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