「治療方法の選択」について、判例をご紹介します。
医師の治療方針には文句が言えないような雰囲気がありますが、ご紹介する判例では、医師の治療方針に対し、法的なメスを入れています。
舌癌の患者に対する治療方法の選択につき、医師は、新鮮がん(新しくできた癌)の段階で手術を選択せずに、化学療法を採用しました。
ここまでは全く問題ありません。
その後、癌は再発してしまいます。
ところが、同医師は、そこでも根治手術を行わず、化学療法を続けたのです。
結果、患者は、自らの意思で転院し、他の病院にて手術を行い命は取り留めたものの、言語、嚥下機能全廃などの後遺障害に至り、味覚、嗅覚も失い、終日よだれを垂れ流し、頻繁に痰を除去しなければならないため、外出はほとんど出来なくなってしまいました。
これに対し裁判所は、新鮮がんに対する化学療法の選択は、医師の裁量の範囲内とした上で、再発がんに対し、化学療法を継続したことが過失にあたるとしたのです。(東京地判 平元・3・13)
医療現場では、よく有り得そうですよね。
医師自身の方針に固執し、治療方法を変更しないケース、いわゆる診療上の不作為にもなろうかと思いますが、裁判所は、その不作為を過失としたのです。
患者には自己決定権があり、自らの意思で受診を止め転院していますが、裁判所は、その事を患者側の過失とはしませんでした。
病院側が「患者が勝手な判断で受診を止めたのだから医師に責任は無い」と言っても通用しないという事ですね。
かねてより、インフォームド・コンセントが重要と言われていますが、この説明→納得→同意の重要性を再認識させる判決です。
因みに慰謝料としては患者本人に500万円、患者の妻に対しても精神的苦痛を考慮し100万円を認定しました。