交通事故ですが、覚えておくと良い事例を2つご紹介します。
一つ目、「母親の苦労もわかってよ」
通常、交通事故の慰謝料と言えば、被害に遭ったご本人が受取るものですよね。周りの家族などの心労があったとしても、その慰謝料は算定し辛く、ご本人のみの治療期間に応じた苦痛が慰謝料として計算されていました。
ところが、東京地判平11・2.26の判例では、なんと!
交通事故により重度の障害を負った娘を介護する母親の慰謝料100万円を認めたのです。
介護の苦労に比べれば見舞金程度の金額ではありますが、本人以外にも慰謝料を認めたのは特筆すべき判決ですね。
二つ目、「老後の楽しみを奪わないでくれ」
このケース、実は被害者には、目立った外傷も無く手当てをするべき怪我は御座いませんでしたが、全身の疼痛を訴え、四肢の不全麻痺が生じていました。
通常は、治療が前提であり、治療が無いと、治療期間に応じた慰謝料は算定出来ず、慰謝料無しという結果に終わってしまいます。
ところが事故後、1ヶ月経ても痺れ等は引かず、痛みも有り、四肢の不全麻痺から排尿障害までも出現していました。
これを裁判所は、後遺障害と認定した上、治療期間は無い為、傷害慰謝料と後遺障害慰謝料を分けて算定することは出来ないものの、その区別なく総額で2300万円の慰謝料を認めました。(神戸地裁平11・3・8)
この被害者の方は、身寄りが無く、居宅内の行動も大幅に制限されて半ば介護を要する状態で特養の入所も考慮しなければいけない状況になったとして、
「老後の楽しみが奪われた精神的損害は小さくない」と摘示し、上記金額を認めたのです。
一体どうやって「老後の楽しみ」を算定したのか、判決文には具体的な事は記載されておらず、判然とはしないのですが、この様な判決もあるのだと、
大変参考になる事例でした。
杓子定規な判決ばかりでなく、「母親の気持ち」や「老後の楽しみ」などが盛り込まれると何かホッとしますね。