相続の件で最近質問を頂く中に重要なことが有りましたので、ご紹介します。
お問い合わせ内容
親が自営業者で事業所兼住居の土地建物を遺言で長男が単独相続したのですが、弟が既にその土地建物を登記していて無効だと言われました。
遺言書が有るのに、そんな事ってあるのですか??
回答
今年の4月以降は有り得ます。
今年の4月に民法の大改正が行われました。
その中で、相続絡みでも「直筆証書遺言の方式変更」「遺言の保管制度」「配偶者居住権」「遺留分割前の預貯金の払い戻し」「遺留分減殺請求権の金銭債権化」など様々な改定が行われました。
そして、相続の効力に関する見直しが行われたといってもよい改定に
「特定財産承継遺言についての対抗要件主義の適用」というものがあります。
長ったらしくて何を言っているのかわからない改定ですね。
これまで遺言者が「相続させる」と言って遺言すれば、
基本OKだったものが、それだけでは駄目になったというものです。
他の人にその権利を主張する為には対抗できるだけの要件(不動産なら登記)を済ませておかなければいけなくなったのです。
今回、弟さんが先に登記を済ませてしまっているので、長男がいくら相続を受けその権利を主張しても「対抗要件」を備えていないという事になり、無効になってしまいます。
兄弟がうまくいっていれば話合いも出来ますし良いのですが、お父さんの事業承継を目的とした意思は実現できない事があるということですね。
民法の中の新法899条の2で新設された条文です。
これにより、「遺言で「相続させる」という文言があれば、法定相続分の心配はいらないですよ。」というアドバイスは通用しなくなりました。
これは、旧法のもとで作成された遺言についても適用されるというので注意が必要です。
今回のケースも含め兄弟間であれば、話し合いの余地はありますし、
良かったのですが、更に遺言の効力を減じる条文が出来ています。
それが、新法第1013条です。
これは、仮に今回の弟さんが、借金を抱えていたとして、その債権者を保護するという条文です。
債権者は、金融会社とします。
その債権者は、遺言に基づく相続登記がされる前に債務者である相続人の法定相続分に権利行使すれば、それが有効となってしまうのです。
つまり、先に差押えてしまえば良いという事ですね。
お父さんは事業承継をしたかっただけなのに、家族に借金を抱えた人がいたとすれば、遺言とは関係無く、先に差押えられてしまう可能性があるという事です。
こうなると、今まで四十九日を待ってから遺言書を開いて・・・など悠長にやっていたものが、もっと急がないと大変な事になることもあるという事ですね。
一体何故この様な改正が行われたのか不明ですが、これまでも遺言の効力だけが強すぎるという議論は有った中での改正です。
ただし、こうなると益々法リテラシーの有無の問題になりますし、
亡くなった人の意思が尊重されず、法の解釈で知識の有る人が利得を手にする事が有るなど何か納得出来ないですよね。
これに対抗するには、今のところ、「死因贈与契約」や「家族信託」といったものが、有効と考えられますが、これについてはまた別の機会にご紹介します。